=モノローグ=

レスポールと材に関して

1・レスポールの作り 

  a.基本的な構造

 レスポールと聞いて、誰しも先ず思い浮かべるのはセットネックによるボディとネックの接合方法であろう。そして優美なアーチドトップ。

 発せられた弦振動はこの強固なネックセット方法によりネックからボディに伝えられ、ブリッジ&テールピースから伝わった弦振動と相まって独特のサウンドが生まれる。

 これはどのタイプのギターも同じ理屈ではあるが、レスポールの場合はより強固な接合方法により、長いサスティンを得られている。

誤解しないで頂きたいが、ピックアップによる電気的なサスティンでは無いという事である。

 

 独特のボディー形状・メイプルトップ&マホガニーバック(一部オールマホガニーもあり)・強固なネック接合方・最大音響ポイントがブリッジの下部・ペグ・ブリッジ&テールピース・ナット、この要素の全てが一般的なレスポールの音色を決定付けている。特にネックのセット方法とボディ形状が、一番影響を与えていると考えている。

乱暴な言い方をすれば、ここさえきちんとクリアされているならば、どんな樹種を使おうが「レスポール的な音」になるはずである。

 そして、もう一つ付け加えるならば、フルアコの延長線上にある楽器とも言えるのではないだろうか?元々アーチドトップを手がけてきたギブソンが、他者には真似の出来ないボディ形状でソリッドギター市場に参戦したという事は容易に想像できる。

 

  b.メイプルとマホの組み合わせの効果

 メイプルは一般にソフトとハードの2種類に分別されるが、共にトーンウッドとしては高域に特性を持つ。

所謂「堅い音」である。

他方マホガニーは中域にピークを持つ樹種であり、レスポールの主要な音色(ズドンとした中域)はこのマホガニーで決まると思ってもらって構わない。

 インダクタンスの異なる樹種で、双方の不足している音域帯をカバーしている構造になる訳だが、同時にこの2種類の樹種を貼り合わせる事で、それぞれの木の持つ応力が相互に影響仕合ってボディ剛性を高めているとも言える。

そしてメイプルとマホガニーのそれぞれの厚みで、サスティンの調整(反射音と減衰音)を行っているのではないかと思われる節もある。

 

 c.全てのパーツが出音に影響を与える

 主要な音色は木材と全体構造によって決定されるが、他のパーツも全て楽器の一部として捉えて欲しい。

代表的なのがP.U.であり、ペグ・ブリッジ・テイルピース・ナット・ポット・配線材・エスカッション等々、重箱の隅を突けば突くほど様々な要素が絡まってくる。

 例えばペグを交換したとする。全く同じタイプのペグでも「あれ?」と思った事はないだろうか? 

 クルーソンタイプからグローバータイプに交換すれば、その違いは大きく感じる事だろう。これはパーツの重量の差が影響している顕著な例である。

 ちょっとしたパーツ交換で容易に音色は変えられるが、弾き手はともかくとして、聴く側にとっては大した違いは言い当てられないと思うが。

 電気的な部分に手を入れれば、もっとこの差を強く感じるが、果てがないので割愛させて頂く。

 

2・バック・ネック材

a.いわゆる「マホガニー」とは?

マホガニーはセンダン科に属し、当然日本にも自生している樹種である。

このセンダン科自体かなりの数になり46属700種あまりが世界に分布している。

ギブソンが主に使用しているのは中南米周辺からの樹種であろうと思う。

有名な「ホンジュラス・マホガニー」は、乱伐により絶滅危惧種としてワシントン条約第一項に入っており、国外への持ち出し・輸入は厳しく制限されている(現在市場で流通しているホンジュラン材はプランテーション、若しくは規制前の古木が建前である)。

現在では同じセンダン科に属する「アフリカン・マホガニー」が、ホンジュラン材の代替品として広く流通している(同じくアフリカ種のサペリマホガニーもマホガニー材として流通している)。

80年代初頭くらいまでは「マホガニー」と言えばホンジュラン材、現在はアフリカン材を指す。

共にトーンウッドとしては同様の傾向にあるが、私の経験上ではアフリカン材は少々音が軽いような気がする。

サペリマホガニーはまだ試した事はないが、気乾比重がホンジュラン材に近いので興味のある樹種である。

現在はボランティア活動により、各地で植林が行われている樹種でもあり、温帯から熱帯までが分布範囲。余談だがフタバガキ科のラワン類とメランチ類も、マホガニー材と称されて流通している。

マホガニー材の音色は皆さんご存じの通り、中低域がリッチで高域は少し鼻が詰まるような音になる。しかし、それはそれで持ち味であり良い悪いではない。

両方の樹種共に加工のしやすさは抜群で、実に扱いやすい「材」である。

なお、ホンジュラン材・アフリカン材は共に高級家具に使用される銘木。

ちなみに余談の余談。マホガニー材の粉は気管支炎と皮膚炎症を起こす(皮膚炎経験済み)。

 

b.見分け方

ホンジュラン材とアフリカン材の見分け方であるが、加工前の状態なら導管の入り方ですぐに分かるが、塗装をされてしまうとなかなか難しい物がある。

強いて言うならば、ホンジュラン材はシリカ成分を含有しているのでキラキラ光り木理が通直・稠密である事。

アフリカン材は導管が多少荒く木理は通直〜交錯している。

もし貴方がどうしても「ホンジュラン材が良い!」とこだわりを持つならば、一度偏見を捨てて欲しい。

ホンジュラン材・アフリカン材は、共に優れたトーンウッドなのだから。

 

3・ネック

a.ネックの木取り

ネックの木取りは、本柾目(クォーターソウン)で切り出された材からとるのが望ましい。

そして木理は指板に平行ではなく、ネックの付け根でより多くの繊維が残るように加工されるのが強度的にも最適であるし、事実その様になっているはずである。

ネックの木取りが指板に対して水平に変更になった70年代初頭以降から80年代中期までは、ボリュートと呼ばれる強度確保のためのコブが出ている。

さて、本柾目の材は確保するのが非常に難しい。

なぜならば切り出される原木の木理の走り具合が、必ずしも真っ直ぐな木が多くないからである。

特に自然界に自生している原木なら、尚のこと周りの環境に影響されて色々な方向に捻れたり曲がったりするから。

昔は豊富な資源があっただろうし、ストック材もあっただろう。然し現在は貴重な資源である。いつも不思議に思うのは、よくあれだけ木目の揃ったネック材がメーカさんが確保できる物だと感心しきり、羨ましい限りである。

その分キッチリ作ってあるギターの値段が高いのは、ある程度理解は出来る。

逆に言うと、限りある貴重な資源を「使わせて頂いてる」とも言えるし、代替材が「マホガニー材」として流通しているのも頷ける。

更に、いくら本柾目の木を使っても、しっかり作っていないと無駄に消費されているだけであるという事。

この辺りは勘違いしないで欲しい。ギターはトータルバランスの楽器である。

  

b.樹種による音の違い

さて、レスポールの歴史の中で唯一と言っていいネック材の変更は、70年代中期〜80年代中期にかけてのメイプルネックの使用であろう。このメイプルネック仕様は3ピースのボリュート付きと、レスポール史上最強の強度である。

使用されたのは、例外なくハードメイプル系と思われる(私はこの年代のソフトメイプル仕様のネックは見た事がない)。

音色の違いは、例えるならマホガニーネックがゴツンとした音なら、メイプルネックはガツンとした音(分かりづらいかもしれないが)。

やはりメイプルネックは中高域〜高域方向に特性が向いている分、ゴンとしたパワー感がある。そしてサスティンも長めになる傾向があると、私自身では感じている。

他方マホガニーネックは中低域〜中域にピークがあり、いわゆる「暖かいサウンド」という印象。

比較してみても無意味だと思うが、どちらの樹種で出来たネックも持ち味があり、どちらがよりベターとは言えないと思う。むしろ「ネックの作りと、ちゃんとした加工精度でネックがセットされているか」が問題だと思う。

 

c.ヘッド角の違いとその効果

オリジナル'50sと現在のレスポールは17°のヘッド角を持つ。

しかし'69年辺りから、そしてそれ以降のメイプルネックの時代は14°とネック角が変更になった。

この違いで起きる現象は以下の通りである。

1・テンション(弦の張力)の低下

2・テンションの低下によるサスティンの増加

3・共振周波数の変化、より中域へとシフトする

4・ネック材の歩留まりが上がる(無駄になる材が減る)

5・アタック感の低下

この内3と5はメイプル材のネック使用により相殺されるが、多分に4のネック材の歩留まり、コストパフォーマンスを意識しての変更ではなかったのではないだろうか?

1952年に発売されたレスポールは、当初ネックの差し角が3°('54〜現在は5°)であった。これもサスティンを考えた結果ではなかったかと考える。

           

4・トップ材

a.メイプルの樹種

メイプル材は、大雑把にソフトメイプル類とハードメイプル類の2系統に別れる事は皆さんもご存じであろう。

「じゃあ、どうやって分けてるの?」と思っている方も多いのでは........。

読んで字の如く、比較して「柔らかいのはソフト」「堅いのはハード」。

詳しく見ていくと。

先ず樹種だが、カエデ科に属す樹種であり「ハードメイプル」はシュガーメイプル・ロックメイプル・ブラックメイプル・イエローメープルの総称。

「ソフトメイプル」はビッグリーフメイプル(ウエスタンメイプル)・イースタンメイプル(レッドメープル・シルバーメープル)ヨーロピアンメープル(ジャーマンメイプル・フィドルバックメイプル別名ホワイトシカモア)の総称である。

さてこの「ソフトメイプル」の中でも硬さの違いがあり、堅い順からヨーロピアンメープル・イースタンメイプル・ビッグリーフメイプルの順になる。

「ソフトメイプル」は「ハードメイプル」からは凡そ25%前後強度が違い、加工のしやすいメイプルであり、杢も派手な杢が出やすい。

キルト紋様が出ているのはソフトメイプル系である。

ちなみにフレックと言われる木の染みがあると「ハードメイプル」と言われているが、それは間違い。

「ソフトメイプル」でもフレックはある。どんなメイプルでも生育環境によってフレックは出る。

「ハードメイプル」の特徴はシルクのような光沢があり、故に杢が浮いたり沈んだりする。

また、「バーズアイ」「ブリスター」と呼ばれる杢は「ハードメイプル」の特徴の一つである。

もし貴方のギターがソフトorハードか調べたい時は.....外見から見えない所にキリを突き刺してみよう。

ソフトは「ずぶ」と行くだろう、だからといって失望する必要は全くない。

ギターとして完成度が高ければ、良い音色が出るはずである。

自分がどんなサウンドが欲しいかでギターは選ぶものであって、決してスペックで選ぶものではないと付け加えさせて頂く。

 

b音の傾向

色々なレスポールを弾いてきて、経験上の話になってしまうが.......。

「ハードメイプル系」はやはり高域方向カツンと来る特徴がある。

私の所有しているハードメイプルトップ・ホンジュランマホガニーのネック&バックのレスポールは、まるで暴れ馬のようで人によっては扱い辛いようだ。

そして「ソフトメイプル系」にいくに従ってアタックのピークが中域寄りになってくる。

ソフトメイプル材で作られたギターはコントロールしやすいと思う。ただし、バック&ネックのマホガニーの影響もあるのでハードだから、ソフトだからという議論は無意味に思える。

むしろ全体のバランス&作りによってギターの音色は決定されてくると、くどいようだが言いたい。

 

c.オール・マホガニーとの違い

メイプルトップのレスポールと、オール・マホガニーのレスポール。

決定的な違いは音の粘りがオール・マホガニーのレスポールの方がより強い、というところだろうか。

歪ませずに弾くとマホガニー材本来の温かみのあるサウンドであり、歪ませるとブーミーに粘る。

音の太さも、ホールマホガニー材で作られたレスポールの方が太い。

私の経験上の話であるが、高域方向の音の伸びが少ないのかマホガニー材に振動が吸収されてしまうのか、サスティンの面で若干メイプルトップの方に分があるように感じた。

勿論「個体差」があるので一概には決定づけられないが、一度多数のサンプルで検証してみたい誘惑に駆られる。

然しブラインドテストをやってみたら、余り違いは判らないのでは.....という気もするが。

 

3.指板材

レスポールには一般的にはローズウッド材かエボニー材が指板材として使われている。

一時期はメイプル指板という物もあったが......弾いた事がないので割愛させて頂く。

この指板材は、ネックと同様に音色に大きく影響すると私は考えている。

結論から先に言ってしまうと、堅い材を指板に使用したギターはアタック感が増し、柔らかい材ではアタック感が押さえ気味になる。

また、同じ樹種でも目のつまり具合と重量で、音色の差も出てくる。

ネック材と相まって、様々なアタック感・音色が存在する訳だ。これもギターという楽器の面白い所。

では、それぞれの指板材の特徴はというと......。

 

a.エボニー(黒檀)材は堅く重厚であり、大別するとマメ科とカキノキ科の2種類に分かれる。

マメ科に属する物は「真黒」と言われる完全に黒いアフリカ・タンザニア産。

カキノキ科に属する物は「縞黒炭・本黒檀・青黒檀・班入黒檀」と色によって大別され、主に産地は東南アジアからインド・スリランカである。

どちらがより優れているかという議論は全くもって無意味。

ただし、アフリカ産の「真黒」と言われるマメ科の物は流通量が少なく、希少性はある。

カキノキ科の「エボニー」は、一見するとローズウッドに似ているが、ローズウッドとは重さが違う。

ギターで使用されている材は、ほとんどが後者の「エボニー」である。場合によっては、黒に染められて使用されている。

高級材として扱われており、レスポール・カスタムに使われているのは、スタンダードとの差別化といった意味合いであろう。

 

b.ローズウッドは各地に広く分布しており、マメ科に属する。

切った時にバラのような香りがするのでこの名前が付いた。

産地は東南アジアから南米、アフリカ産と広範囲に渡る。しかし同じマメ科の紫檀(本紫檀)もローズウッドと呼ばれるから、とてもややこしい。

現在は主に「イースト・インディアン・ローズウッド」が主流であり、別名はソノリケン。

「エボニー」と比較すると気乾比重が小さくなり、アタック感も押さえ気味のサウンドになる。産地ごとに比較した経験は余りない(サンプルが少ない)のでザックリとした言い方になるが、同じ樹種であれば目が詰まった物の方がサウンド的にはしっかりした音ではないだろうか?

元々、木理は粗い材ではあるが、やはり目の詰まった物を選んだ方が音の芯が安定している。あとは好みであろう。

さて、巷ではハカランダ材(ブラジリアン・ローズウッド)が最高!とされているが、果たしてそうであろうか?

その中でも真っ黒の材が最高!とされているが、果たしてそうであろうか?

指板材も稠密な材が良いと私も思っているが、ハカランダにも色々ある。

黒々していてもタッピングすると鈍い音しかしない材、白くてもカーンと良い響きがする材。

私は100枚以上のハカランダ材を持っているが、個性とりどりでバラエティに富んでいる。

また、ココロボ材も同様である。

たまたまボリビアン・ローズウッドを入手したが、これも個性に富んでいる。

ハカランダ材は確かに堅く稠密な物が多いが、オリジナルレスポールでは実のところエボニー材の代用品として使われていたに過ぎないと考える。

当時は豊富にあった資源だからであろうと推察されるが、乱伐で資源が枯渇し値段が高騰、今度はインディアンローズ材が使われ出したのが実際の所であろう。

今のハカランダブームは、ワシントン条約第一項に入ってしまった希少性も一役買っていると私は思っている。

確かに良い材であるには間違いない。因みに私はハカランダの音は好きではある(笑)

BACK TO THE TOP